【羽後町で、暮らしをたがやす】
一杯のコーヒーで醸す、至福の時間。|たがやすひと02

今年8月にスタートしたUGONEWSの新企画「たがやすひと」。総面積のおよそ6分の1を耕地面積が占める羽後町で、先人たちの時代から土地を耕し豊かな農産物を生み出してきました。そんな生きる上で欠かせない「耕す」という営み。その一方で、日々の「食べるもの」を得る以外の時間を活かして豊かな生活を耕している人をUGONEWSでは「たがやすひと」と呼び、その「好き」を極める姿を紹介していきます!

二人目の「たがやすひと」は、高橋駿輔(たかはししゅんすけ)さん。6年前からコーヒーにハマり、オンラインストアで気になる豆を購入しては自宅で焙煎。「地域に根付いた自家焙煎珈琲店のオープン」を目標に、秋田県南の珈琲店巡りや書籍でのリサーチなどコーヒーに関わる勉強を続けています。

今や、コンビニでもコーヒーを買える現代。そんな時代に、あえて自ら豆を仕入れて焙煎し、日々コーヒーの知識と研鑽を積む駿輔さんに、その魅力を聞きました。

人生24年、コーヒー歴10余年。自家焙煎への入口

駿輔さんがブラックコーヒーを飲みはじめたのは、中学生の頃

「初めてコーヒーを飲んだときも『苦い』とは思いませんでした。幼い頃から緑茶やストレートの紅茶を飲んでいたので、割と入りやすかったのかもしれません」

家族で出かけた際には、コンビニで親が頼むついでにコーヒーを買ってもらっていたそう。まだ10代前半の駿輔さんの日常に、コーヒーはすんなりと馴染んでいきました。

高校に進学し、高校生対象の起業体験プログラムに参加。駿輔さんは同級生数人とチームを組み、十文字にあるスーパーモール・ラッキーで「ベトナムコーヒー」を出品しました。「ベトナムコーヒー」との出会いは、2018年に行われた羽後高タイ短期留学。現地の空港で飲んだことがきっかけでした。甘さが特徴の「ベトナムコーヒー」がタイでも人気だと知り、日本に住む人にも飲んでほしいとの思いで出品を決めました。

そのほか、カフェインが苦手な人や妊娠中の方でも楽しめるようにノンカフェインの飲料や、みなとやラグドール洋菓子店(羽後町)とコラボした五葉豆のシューラスクも出品するなど、売り方の工夫が評価され、起業体験プログラムの最優秀賞に選ばれます。駿輔さんの中で、ビジネスとコーヒーが繋がった瞬間でした。

↑起業体験プログラムにて、チームメンバーと協働する駿輔さん(右奥)

高校を卒業し、就職。「自分でコーヒーの店を出せたら面白いだろうな」との思いつきから手回しのミル(焙煎したコーヒー豆を粉状にする器具)を購入。秋田県内のコーヒーチェーン店で焙煎済みのコーヒー豆を買い集めて家で飲み比べるうちに、気づけばコーヒーの沼にどっぷり浸かっていました。

その頃、家族のつながりで、横手市増田の栗谷珈琲焙煎所へ。これが現在、駿輔さんが「師匠」と呼ぶオーナー・栗谷さんとの出会いとなります。

↑焙煎機の使い方を教わる駿輔さん(左)と、師匠の栗谷さん(右)。栗谷珈琲店にて。

それから1年ほど栗谷珈琲店に通い、話したりコーヒーを飲み比べたりする中で「自分もやってみたい」という気持ちが湧いてきたところ、栗谷さんから「自分で焙煎してみたら?」と提案が。

早速、栗谷さんの所持品だった手回しの焙煎機を借り、自宅で自家焙煎をするようになりました。焙煎を始めて、今年で早4年半が経過。現在は、焙煎した珈琲豆を知り合いに販売し、感想を聞くのも楽しみになっています。

焙煎と淹れ方 豆にあわせた理想の味を追求

コーヒーの味の違いといえば思い浮かぶのが、「浅煎り」「深煎り」といった焙煎度合いを表す言葉。しかし、コーヒーの味を決める条件はそれだけではないそう。コーヒーをあまり飲むことのない筆者が、コーヒーの味を決める条件について駿輔さんに聞いてみました。

まず焙煎で重要なのが、「時間」と「温度」の管理。コーヒー豆の種類に合わせ、豆の持っている個性が一番出る焙煎度合いに仕上げるために試行錯誤を繰り返します。

焙煎機によって焙煎のやり方はさまざまで、時間と温度を全自動で調整してくれる焙煎機もあれば、駿輔さんの場合は手回しの焙煎機。そのため、時間管理にはスマートフォンのストップウォッチ機能を使用し、温度管理では焙煎機から出てくる蒸気に手をかざしておおよその温度を把握します。

「コーヒーの豆は最初は緑色。焙煎することで豆の皮(チャフ)が剥がれて豆が膨らみ、油脂が浮きやすくなると同時に、どんどん色が黒くなっていきます」

豆の細かい変化に気を配りながら、理想の味が出る焙煎度合いを目指します。

とはいえ、「当初は焙煎しても変化がわからなかった」と駿輔さん。さまざまな豆を使って焙煎を繰り返し、焙煎時に出る「バチバチ」「チリチリ」といった音の移り変わりや豆の色変化を観察する中で、美味しくできる条件を探っていったといいます。

↑焙煎機内の温度を示すモニターに向ける眼差しは真剣そのもの。

もう一つ、味に影響する条件が「淹れ方」だといいます。駿輔さんが様々な珈琲店を訪れ、話を聞く中で感じたのが「人によって使う道具も違えば、一回に抽出する豆の量も違う」ということ。駿輔さんの場合、味わいへのこだわりから、コーヒーを入れる際にはマグカップを使用しているそう。

「マグカップだと飲み口が太くて耐熱性もあり、コーヒーの温度が下がりにくい。しかも飲み口が厚いことで程よい温度で飲むことができ、甘みを感じやすいという特徴もあります。飲み口が薄いと喉越しは良いのですが、熱く感じてしまうことが多く、味わいとしても酸味や渋みが出やすいんですよね」

また、コーヒーを淹れる際のお湯の温度によっても味が変わるそう。

「お茶で考えてもらえるとわかりやすいと思います。お湯の温度が高いと、渋みが出やすいですよね。逆にお湯の温度が低いと、渋みが抑えられて甘味が出やすい。同様にコーヒーも、淹れる際のお湯の温度で味が変わってきます。

90度前後のお湯で淹れると酸味が抑えられて苦味や甘味が出やすく、85度前後で淹れると酸味が出てあっさりした味わいになる、といった具合です」

なるほど。豆を選んで購入するところから、焙煎をして淹れるところまで、あらゆる要素が重なり合って「一杯のコーヒー」が完成する。それらの条件をコントロールして、理想の味に仕上げるのが焙煎士。いやぁ、なんとも深いです…。

「地元を盛り上げたい」羽後町でオープンを目指す理由

30歳までの珈琲店オープンを目指す駿輔さん。目指すお店の形は、「万人うけはしない、でも特別感のあるお店」。

「コーヒーって、淹れ方にその人の人情味みたいなものが出てくるんですよね。例えば無愛想なオーナーのいるお店で、味のしっかりしたコーヒーが出てくる。そういうお店に通い詰めて常連になると、無愛想だと思っていたオーナーともいろんなやりとりが生まれたりする。

万人受けはしないけどハマった人に通ってもらえるというビジネスモデルは、コーヒーならでは。だからこそ、自分の店でしか飲めないコーヒーを提供して、『この人が淹れてくれるから飲みたい』と思ってもらえるようなお店を作りたいです。それと、自分は人混みが得意ではなくて。たくさんのお客さんに来てもらうというより、お客さんと自分がゆっくり話せるような雰囲気のお店を作りたいという思いもあります」

駿輔さんイチ押し「カフェ・シェケラート」はシェイカーを使用して作る、甘さのあるコーヒー。

羽後町での出店にこだわるのは、地元に還元したいから。

「育った町に潤いを与えたい、という思いが一番にあります。その意味で、『ここの店でゆっくりできる』と思える居場所を作りたいなと。

適度な賑わいがあることで羽後町に住み続けたいと思えるかもしれないし、町の経済の循環にも繋がる。一度羽後町を出た人が、『ちょっと行ってみようかな』とお店に来てくれて、この店に通いたいから戻ってくるという選択肢も出てくるかもしれない。

集客の面で難しさもあると思いますが、SNSを活用するなど積極的に呼びかけをしていけたらと思っています」

店づくりのアイデアも教えてくれました。

店をやる時にお酒も出したいなと思っていて、お酒についても勉強中です。コーヒーカクテルなども提供したくて。夜営業でアルコールを提供するのはもちろん、仕事で夜勤をされている方もいるので、夜勤明けに一杯飲んで、 朝からゆっくりしてもらえる場を作れるといいなと思っています

↑コーヒーを淹れるときも、まさに一点集中。

ずばり、コーヒーの魅力とは

「コーヒーって沼だな、と思うんです。いろんな楽しみ方があって、家で豆を挽いてハンドドリップする時もあれば、チェーン店で気軽に飲んでくつろぐ時もある。

自分の場合は、焙煎した時に出てくる豆の表情を独り占めできる瞬間が至福のとき。焙煎を終えて豆が仕上がった瞬間、それを抽出して飲んでみた時の第一印象は自分しか知らない。

もちろん苦労もありますが、試作を繰り返して良いものを作り上げる、裏方ともいえる準備作業の過程を独り占めできるのが、自分にとってのコーヒーの面白さです」

「友人から『職人気質なところあるよね』と言われます。豆ごとに最適な焙煎度合いを見極め、お客さんの反応も踏まえながら改良を加えていく。失敗を繰り返して経験を重ねることで技術が磨かれ、良いものを作り出すための『再現性』が生まれる。

自分の良いと思える珈琲の作り方が確立した時の快感は格別です。コーヒーの勉強や試行錯誤を経て人とのつながりが増えていくことも、人と話すのが好きな自分にとっては魅力になっていますね」

10代前半でコーヒーと出会い、ふとしたきっかけから出店・手挽き・焙煎とコーヒーとの距離を縮めてきた駿輔さん。コーヒーと向き合い続ける時間が、出来上がるコーヒーの味を、そして何より駿輔さん自身の人生そのものを醸し続けてきたのかもしれません。今日も理想の味を目指して、自分の舌と感覚を頼りにコーヒー沼を進み続けます。

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UGONEWS編集部(地域おこし協力隊|岸峰祐)