羽後町西馬音内を東西に横断する通称・本町通り(ほんちょうどおり)。西馬音内盆踊りの会場となるこのメイン通りに門を構える新たな複合施設が「盆宿U(ぼんやど・ゆー)」です。現在の羽後町を中心として秋田県南に名を馳せた柴田与之助家・通称「柴与家」の築180年になる旧家を改装し、2025年4月にプレオープンを迎えました。プレオープン期間の営業時間は8:00〜21:00、定休日は水曜日・木曜日。同年8月にグランドオープンを予定しています。
盆宿Uのコンセプトは「泊まれる文化交流施設」。「宿」を名前に冠した一方、宿泊はあくまで交流のための一機能とのこと。柴与家が重ねた歴史を受け継ぎ、新たに誕生した盆宿Uが見据える「文化」と新たな「交流」の形を、盆宿Uの運営会社「合同会社U」の代表社員・京野健幸さんに聞きました。
この土地で、盆宿Uが果たすべき役割
盆宿Uの始まりは、2023年に発足した「うごまち企画室」にさかのぼります。羽後町で建設業を営む六鎗工務店の六鎗吉夫会長が2021年に旧柴与家の建物を譲り受け、建築家の工藤浩平氏と共同で観光拠点の整備計画を始動。地域イベントへの出店や地元学生による施設ツアーなどを実施し、地元住民との連携を深めながら、建物の改築に着手しました。
*工事期間の前に行われた見学ツアーの様子↓
↑改築前の旧柴与家
↑プロジェクトについて知ってもらうために、旧柴与家1階の土間で行われた展示の様子(2024年)
並行して進められたのが、地域の人々への聞き取りと施設コンセプトの設計です。聞き取りでは、地域にとって重要な存在であった柴与家の活用にあたり、西馬音内のキーパーソンに話を聞いて解像度を高めました。その中で明らかになったのが、地域の文化継承を後押ししてきた柴与家の存在です。
西馬音内盆踊りにおいては、踊り・衣装統一の契機となった1935年の「第9回全国郷土舞踊民謡大会」出場にあたっての資金援助から西馬音内盆踊保存会立ち上げへの貢献、会長就任など盆踊り継承に寄与。また当時、羽後町西馬音内の川原田(かわらだ)にあった柴与家の別荘に文化人を招いて地域内外の文化交流を促すとともに、同敷地内にある庭園を地域に開放し、地元住民が美や文化に触れる機会を作りました。この庭園は地域の人々から親しみを込めて「川原田公園」と呼ばれていたそう。地域の人から柴与家に対する思い入れや盆宿Uに対する期待感を寄せられる中で、町の歴史を学び受け継いでいくことが、この柴与家を譲り受けて運営していく者の使命であるとの思いを強めたといいます。
時間と手間暇をかけ醸成されてきた羽後町の貴重な文化と、地域文化を支え内と外を繋いできた柴与家。そうした系譜の延長線上で、盆宿Uもまた羽後町の豊かな文化を繋ぎながら、外と内を繋げる新たな拠点となることを目指す。外の人を迎え地域の文化を伝えながら、かつての川原田公園のように地域の人が外から来た人や文化と交わることで、この地域の文化が花開いていってほしい、と京野さんは考えています。
今年4月プレオープン。見えてきた課題とは
羽後町西馬音内の歴史文化を「遊・幽・結」という3つのコンセプトに昇華し、旧柴与家の建物と地域の人々の思いを引き継ぐ形で進められた盆宿Uのプロジェクト。建築家・工藤浩平氏を中心として行われたハード面の整備、京野健幸氏を中心として行われたソフト面の整備を終え、2025年4月19日のオープニングイベントをもってプレオープンしました。オープニングイベントは延べ来場者数500名、マルシェや内覧会、地元商店18店舗を巡るスタンプラリーなど盛り上がりを見せました。
そこから早一ヶ月が経過し見えてきたのが、地域内外から人を迎え入れる盆宿Uならではの難しさです。旧柴与家の上質な建築を活かし、地域外から来る人の期待する「非日常な空間」に応える構えを備えた盆宿Uの施設。
そうした魅力的な外観は一方で、地域に住む人にとっては入りにくい印象にも繋がります。宿には「自分たちは対象ではないのでは」、ラウンジや地域連携スペースも「何ができるの?入っていいの?」といった声も寄せられているそう。色々なコンテンツが入った複合的な施設だからこそ、一見しただけでは施設の全容がわかりにくい側面もあるのかもしれません。
まだプレオープン期間ではありますが、すでに宿・サウナとパブリックラウンジはサービス提供を開始しており、広場奥のパブリックラウンジにて宿・サウナの受付やカフェ&バーの注文が可能です。当時の建築がほぼ手付かずで残る母屋の1階部分も10:00〜18:00の間、受付不要で自由に見学できます。そのほかにもレンタルスペースでの展示や、パブリックラウンジでゲストDJを呼んで行われる「U Music Lounge」、初めましての人と食卓を囲む「U コミュニティダイニング」など、交流を生み出すさまざまなイベントが定期的に開催されています。
*3つのコンセプトや施設の詳細は、こちらの記事をご覧ください!↓
西馬音内盆踊りが行われる今年8月までのプレオープン期間は、あくまでグランドオープンに向けての準備段階という位置づけ。地域内外から寄せられる声を参考にしながら、最終的なサービス内容や定休日などを決定していく予定です。
特に地域の方々には「ぜひ気軽にきて、お話を聞かせてほしい」とのこと。実は盆宿Uの運営スタッフ7名のうち5名が20代で、盆宿Uの思いに共感して町内外から集まった若者たち。羽後町に住んだことのないメンバーもおり、これから地域外の人を迎え入れる立場としてまず自分たちが地域のことを知らなければ、と感じているそう。羽後町西馬音内という歴史ある地域で今まで暮らし感じてきたこと、見てきたものを、気軽に立ち寄って「昔はね…」と教えてもらいたいと語ります。
新たな文化が生まれる場所に
盆宿Uの役割は、地域の魅力や豊かさを地域外に伝え、羽後町を訪れる人を増やすこと。そして、訪れた人と地域の人との交流を生み出すこと。そうした活動を通じて、新たな文化が生まれる場所となることを目指しています。
また今回、アートを通じて地域の文化や魅力を表現する「U art project(ゆー・あーと・ぷろじぇくと)」が始動。秋田県出身の絵画作家・永沢碧衣氏を招き、2025年6月17日(火)より公開作品制作を行います。施設を訪れた人々と共創しながら作品の完成を目指す、新たな形のプロジェクトです。
作品のテーマは、盆宿Uのコンセプトの中心を担い、羽後町西馬音内を語る上でも欠かせない「西馬音内盆踊り」。地域の人々により日常生活の中で受け継がれてきた重要無形民俗文化財です。西馬音内盆踊りをとり巻く日々の営みも丸ごと伝えることのできるような作品を描きます。より多くの人と共に作品を作り上げたいという想いから、作品制作に参加する一つの方法として、クラウドファンディングページ(サイトリンク)を立ち上げ。この機会を通じて、より多くの人々にアートプロジェクトはもちろん、盆宿Uの施設や地域について知ってもらうことを目指します。
▷制作スケジュールや参加方法などはこちらからダウンロードいただけます。
↑アート作品の完成イメージ
これからも様々な展開が見込まれる盆宿U。新たな形の文化交流施設を通じて羽後町の重層的な文化を引き継ぎ、より豊かで魅力的な町と文化を育んでいく未来を見据えています。
【問い合わせ先】
盆宿U
住所 秋田県雄勝郡羽後町西馬音内本町47
TEL 0183-56-7615
MAIL u_info@bon-yado.jp
各種リンク 公式サイト Instagram Facebook
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UGONEWS編集部(地域おこし協力隊|岸峰祐)