羽後町に誕生した新たな文化交流施設・盆宿U(ぼんやど・ゆー)。2025年4月のプレオープンから2ヶ月が経過し、すでに町内外から多くの人が訪れているそう。どんな関わり方ができるのか、気になっている方も多いのでは。今回は実際に盆宿Uを訪問し、各エリアを巡りながらお話を伺ってきました。【盆宿U・前編】では、盆宿Uの軸となる3つのコンセプトに着目し、それぞれのエリアが果たす役割を紐解きます。ぜひ現地を訪れた感覚になってご覧ください!
*【盆宿U・後編】は近日公開予定。UGONEWS公式SNS(Instagram、Facebook)での告知をお待ちください!
3つのコンセプトを通じ、文化と交流を育む
盆宿Uのコンセプト設計を担ったのが、岩手県遠野市を拠点にプロデュース業や出版業などを行う株式会社 富川屋(とみかわや)。豊かな農作物や美しい景色が魅力の羽後町で、あえて着目したのが「文化」です。ニーズに合わせてモノを買うという経済的・消費的な体験が日常の光景となった今日。文化的な体験や他者との対話など時間をかけて関係性を耕す、ゆらぎのある行為にこそ暮らしの豊かさがある。羽後町を代表する重要無形民俗文化財「西馬音内盆踊り」と「お盆」をテーマに据え、町の文化に触れ、人と人との交流を生み出す施設を目指しました。
施設全体のキーワードは、羽後町の頭文字でもある「U(ゆう)」。同じ読み方の3つのコンセプト「遊」「結」「幽」が敷地内の各エリアを表しています。「遊」を担うレンタルスペースや広場は西馬音内本町通りに面し、地域の人も外からきた人も共に楽しめるエリア。外蔵を改装したコミュニティラウンジは「結」を担い、カフェ・バーと宿・サウナの受付を兼任することで、あらゆる人が集い交流できる空間となっています。母屋の内蔵を改装した宿とサウナは「幽」、西馬音内盆踊りをイメージした幻想的な空間で特別な滞在体験を提供します。これらのコンセプトに加え、「cozy=心地よさ」「roots=歴史」「sustainable=持続可能であること」を大切にしながら、各エリアの空間や体験が構築されています。
ー遊ー 人間が心のおもむくままに行動して楽しむ
地域連携エリア ~Commons U~
地域と盆宿Uを繋ぐ窓口が「地域連携エリア」。気になることや疑問があれば、まずは向かって左手の事務所へ。事務所ドアに印字された「Commons U(こもんず・ゆー)」には、利用者と共に管理・運営していく場所でありたいとの思いが込められています。レンタルスペースの利用や盆宿Uのことなど、あらゆる相談を受け付けています。
レンタルスペースは2つあり、うち1つが向かって右手、本町通りに面した土間。当時、呉服屋さんの間借り営業などもされていた空間です。プレオープン期間の4/26〜5/27は、宮城県利府町の陶芸作家・鈴木俊明氏の陶芸展が開催されました。
もう1つは母屋1階の和室で、左手にある座敷は窓を新調して開放感のある空間となっています。当時の暮らしを感じられる母屋1階も開館時間中は自由に見学できるほか、ツアー実施も検討中とのこと。レンタルを希望される場合は事務所を訪れるか、電話でご相談を。すでにマルシェやワークショップ開催の相談が来ているそうです。
ー結ー ばらばらになったものを結ぶ、人との関わりをつなぐ
パブリックラウンジ ~lounge U~
モデルはデンマークにある「アブサロン」。アブサロンとは、もともと教会だった建物をリノベーションして地域に開放したコミュニティスペースで、毎週およそ100種類のイベントが開催される他、会議やイベントに使えるレンタルスペースも完備しています。そんなアブサロンで毎晩行われる「コミュニティダイニング」から着想を得て作られたのが、様々な人が集まって交流できるパブリックラウンジです。
パブリック(公共)の名の通り、「lounge U(らうんじ・ゆー)」は地域に開かれたコミュニティスペース。入り口からまっすぐ進むと、宿・サウナの受付とカフェ&バーのレジを兼ねたカウンターが出迎えます。手前のテーブル席には電源とWi-Fiを完備し、どなたでも気軽に利用できます。
旧家の風情が感じられるのも、lounge Uの魅力の一つ。もとは米を保存する外蔵だった建物で、入り口を通って天井を見上げると立派な梁がお目見え。壁面は元あった土壁を剥がし、大地主の米蔵ならではの広さを活かした開放的なラウンジに仕上げました。底辺が流線形に曲がったカウンターは床の傾きに合わせて特注したそう。トイレとスタッフルームに続く通路にかかる暖簾は、旧柴与家で使用されていた風呂敷を活用。カフェの調度品や食器にも旧柴与家の漆器が使われ、当時の面影を伝えます。
手前の空間には2階床部分の木組みが残り、奥に進むと空間が広がる立体的な造り。ラウンジでは音を通じて人を繋ぐ「U Music Lounge」や、食を通して地域内外の人と交流する「U コミュニティダイニング」など、「結」のコンセプトに基づいたイベントが定期的に開催されています。地域の人にとって気軽に集える場所であり、町外から来る人にとっても一歩進んだ地域体験を味わえる場です。
カフェ・バー
「できるだけ地元のものを提供したい」との思いから、秋田の発酵食文化を象徴する米麹を使ったスープやカレー、地元醸造所のお酒などを提供。夜は「彦三(ひこさ)」のそばを使った冷がけ蕎麦と台湾風まぜ蕎麦を提供しており、羽後町グルメの西馬音内そばを夕食に楽しめます。ドリンクとスープ、パン・焼き菓子はテイクアウト可能。サウナ後には羽後麦酒のクラフトビールで喉を潤しましょう!
ブック&レコードライブラリ
本の持ち主が書いたおすすめポイントや思い出を読み、地域の人と間接的に対話しながら選ぶ新感覚のライブラリ。帯付きの本はパブリックラウンジ内でくつろぎながら一読。帯の付いていない本は貸出OKのため、用紙に記入してカウンターに持っていけば、続きを家で楽しむこともできます。奥にはDJブースがあり、気になるレコードをスタッフに渡すとDJブースでプレイしてくれるほか、レコードの持ち込みも可能。「家にレコードはあるけれどレコードプレイヤーはない」という方は、盆宿Uに持参して、思い出を振り返る時間にしてみては。
ー幽ー 奥深くてはかり知れない、趣が深く味わいが尽きない
雪国である秋田県南特有の内蔵を、県内でも珍しく3つ擁する旧柴与家。今回の改築では外壁を外して通路に光を取り込み、手前の2つの蔵は宿、奥の蔵はサウナに生まれ変わりました。宿はメゾネットルームとドミトリールームの2種類で、その時々の目的に応じて蔵での滞在を体験できます。
メゾネットルーム:「端縫い」「藍染め」
重視したのは、心地よさ。日照時間が短いことからインテリアデザインが発達した北欧・デンマークのブランドの家具を取り入れ、快適な空間を実現しています。照明ひとつとっても、宿のテーマである「お盆」の死生観にリンクするものや、日本の折り紙に着想を得たものなど様々。統一感のある室内で羽後町の文化を感じながら、ゆったりと過ごすことができます。
メゾネットルーム「端縫い」には、現在の端縫い衣装の原型と伝わる胴衣(旧柴与家所蔵)を展示。白・グレーを基調としたインテリアが端縫いの鮮やかな彩りを際立たせます。かつて嫁入り道具として使われた長持ちをクローゼットに活用するなど、できるだけ旧柴与家で使用されてきたものを再利用しています。
メゾネットルーム「藍染め」には、旧柴与家所蔵の手絞りの藍染め浴衣を展示。家具の配色はブルー・ネイビー系で統一し、戸棚の襖には阿波(あわ)藍染の和紙を、枕カバーにも藍染の布地を使うなど細部までこだわっています。
ドミトリールーム:「バンク」「ボックス」
19世紀に全国を放浪し、柴与家の別荘にも滞在した画人「蓑虫山人(みのむしさんじん)」。彼が背負っていた折りたたみ式の宿である笈(おい)をモデルに、気軽に蔵に滞在できる設備を整えたのが盆宿Uのドミトリールーム。秋田杉を使い日本伝統の「板倉構法」で仕上げた蔵2階のベッドルームには、広々としたセミダブルベッドを備え、調光可能な照明や電源を完備。1階のサニタリーとシェアスペースも自由に利用できます。
ドミトリールーム「バンク」は落ち着いたトーンの2段ベッド。ベッドスローには旧柴与家に保管されていた藍染めの布が使われ、部屋ごとに異なる風合いを添えます。
一方のドミトリールーム「ボックス」は扉に旧柴与家の襖を使用し、その寸法と色合いに合わせ明るいトーンの個室に。2部屋とも、立派な梁や内蔵特有の窓、床材の反射など蔵ならではのしつらえが残り、大切に使われていた旧家の面影を感じさせます。
サウナ~bon-sauna U~
一番奥の内蔵は木組みをそのまま、パブリックサウナ(男性専用/レディースデイあり)とプライベートサウナ(性別問わず利用可能)の2つの仕様に。 水風呂には銘酒「若返り」や西馬音内そばの仕込み水にも使われていた地下水を、セルフロウリュには羽後町発アロマブランド「杉宮精香堂」のオリジナルブレンドを用いたアロマ水を使用しています。サウナ室には西馬音内盆踊りのお囃子が流れ、季節を問わず盆踊りの雰囲気を感じられます。
旧柴与家の貴重な建築と大切に使われてきた調度品を引き継ぎながら、統一されたコンセプトや洗練されたデザインを備え、唯一無二の空間となった盆宿U。さまざまな機能を備えた施設だからこそ、訪れるたびに新たな気づきや体験と出会えそうです。まずは気になるエリアから、気軽に訪れてみてはいかがでしょう。
盆宿Uへのアクセス
盆宿Uは湯沢インターチェンジから車で15分。湯沢駅から路線バスやタクシーの利用も可能です。盆宿Uから歩いて行ける距離には歴史ある町並みが残り、西馬音内盆踊り会館をはじめ、和菓子店や酒店など商店が軒を連ねます。施設後方の駐車場に車を泊め、カフェやサウナを利用したり、町を散策したり。休日は羽後町に足を伸ばして、ゆったりと過ごしてみては。
【問い合わせ先】
盆宿U
住所 秋田県雄勝郡羽後町西馬音内本町47
TEL 0183-56-7615
MAIL u_info@bon-yado.jp
各種リンク 公式サイト Instagram Facebook
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UGONEWS編集部(地域おこし協力隊|岸峰祐)