先人の時代から今に至るまで、土地を耕し豊かな農産物を育んできた羽後町。その一方で、日々の「食べるもの」を得る以外の時間を活かして豊かな生活を耕している人を、UGONEWSでは「たがやすひと」と呼び、その「好き」を極める姿を紹介しています!
4人目の「たがやすひと」は、「人星亭まさるこ」の名で活躍する小野勝さん(以下、まさるこさん)。漫談とビデオ撮影という二つの異なる強みを手に、県内外で多くの人に独自の表現を届けています。もともとは大人しくて口数の少なかったというまさるこさんが、今を語る上で欠かせない表現を手に入れるまでの道のりとは。
漫談って何?どんな映像を撮っているの?まだまだ知られざるリアルな姿に迫るべく、まさるこさんに直接お話を聞いてきました!
無口な青年が、舞台に立ち「漫談」を始めたワケ
羽後町へ、県外へ。依頼を受ければどこでも身一つで出かけ漫談を披露する。定番の衣装は黄緑のセットアップに真っ赤なネクタイ。その出立ちも相まって、舞台に上がると会場の空気がパッと華やぎます。
これがまさに、人星亭まさるこの漫談のスタイルです。

そもそも漫談とは、一人の人が舞台に立って世の中のことや笑いのネタを話す演芸のこと。マジックやウクレレ、ヨガなど人によってさまざまなジャンルの漫談が存在するようで、まさるこさんは、お金を意味する「じぇんこ(=銭っこ)」を冠して「じぇんこ漫談」を披露しています。でもなぜ、お金の話?
「師匠に『じぇんこ漫談』でやりなさいと言われた。もともと税務課長だからお金の話はできるでしょう、と」
そう、かつて役場で税務課長を務めていた、まさるこさん。例えば業務の中で税法改正について説明しに行った際には、難しい話の締めとして「お金の貯まる人、貯まらない人」といった親しみやすい語りを披露していたそう。そんなお金にまつわる職務経験が、今のじぇんこ漫談の原型となりました。

「あまり、税金の話とかお金の話をやると、半分くらいが良いことを聞いたって喜んで帰るんですけども、半分の人たちは人生終わった…ってもう最悪の状態で帰るので、だから、そんなに詳しくはやらずに、お得感のあるような話っていう感じでやってるんです」
日常会話をベースにしたネタや師匠からもらったネタも取り入れながら、口調や間(ま)を使い分ける独特の語りで聴衆の笑いを誘います。
そんなコミカルな語りに加えて欠かせないのが、まさるこさん直筆のカラフルでポップな紙芝居。もとは「暗記が苦手」という理由でカンペの代わりに使い始めたそう。しかし弱点克服のために編み出した秘策も、今や「ネタを褒められるより、『絵が上手ですね』と褒められる方が多い」というほど、漫談を引き立てる強みになっています。

とはいえ、昔から人前で話すのが得意だったのかといえば、そうでもないらしいのです。
「還暦の集まりで漫談を披露した際には、同級生たちにびっくりされた。大人しくて無口で、いるかいないかわからないような小野勝が、なんでこんなことを始めたの、と」
大人しかったという、幼少期のまさるこさん(写真左)
漫談を始めたのは、今からおよそ12年前。師匠である人星亭喜楽駄朗(じんせいていきらくだろう)氏の存在をネット検索で知り、「弟子にしてください」と門戸を叩きました。1,2年ほど経つと、師匠について県内の現場を回り、人前で漫談を披露するようになります。
漫談を続けた決め手は「うつ病予防のストレス発散になった」ことでした。発表の場が増えるほど、お客さんに喜んでもらえる。自分の漫談を見た人が「こないだ面白かったね」と街中で声をかけてくれる。漫談を続けることで、日常からストレスが溜まりにくくなっている実感があったといいます。
漫談を始めて間もない頃のまさるこさん(左端)
場所やお客さんが変われば、笑ってもらえず難しさを痛感することも。そんな時は「今日は笑いに来たんだから、笑う覚悟して見てくださいよ」とおどけてみたり、漫談の仲間に習ってマジックを披露してみたり。お客さんを楽しませるための努力は惜しみません。
やっていて楽しい、喜ばれて嬉しい。「自分のため」に続けた先に、今も続くじぇんこ漫談が出来上がりました。
「もう見られなくなってしまう」その前に残したい
毎月のように県内外で漫談を披露するまさるこさんが、もう一つ熱心に取り組んでいるのが「ビデオ撮影」だといいます。
恵比寿俵、高尾田の鹿島さま、仙道番楽、百万遍…地元の伝統行事を収めたビデオが、書斎の戸棚に並びます。それぞれのDVDには、伝統的な踊りから地域の人々の素顔まで、地域文化の今を伝える等身大の映像が収められています。

もともとパソコンが好きで参加した、自主映像制作を行う視聴覚グループ「みるわーく」。そこで、自身の子どもたちが参加していた「恵比寿俵」の映像を見せたことをきっかけに背中を押され、県主催の発表会に毎年映像作品を出すようになりました。全国大会に何度も推薦されるようになり、文部科学大臣表彰を受賞。地域の伝統文化を記録していく活動が評価されています。
「今撮って残しておかないと無くなる。無くなっても、直接見たことのない人がその場の声や雰囲気を体験できるビデオに残したいなということで続けてやっています」
担い手の減少によって、日本各地の地域文化も徐々に姿を消しつつあります。集落だけに受け継がれる文化だからこそ、その集落の人々が辞める決断をすればそこで途絶えてしまう。そんな実情に触れ、「無くなる前に残したい」とビデオを手に取りました。
恵比寿俵の制作過程(まさるこさん撮影)
羽後町軽井沢・牛の沢の「恵比寿俵」奉納(まさるこさん撮影)
羽後町内から、いつしか取材対象は横手市や湯沢市にも。
湯沢市の皆瀬地区では、集落の出入り口に置かれる、石に藁の衣装を着せた「鹿島さま」に着目。地元住民の情報提供をもとに位置情報を掲載した本を作り、鹿島さまの制作過程を収録するなど、年間を通して現場に通い記録に取り組みました。
ちなみに、まさるこさんが撮影・編集した映像の一部は羽後町立図書館にも収蔵されており、ビデオコーナーや貸出で視聴できます。地域密着で撮影された映像から、今まで知らなかった羽後町が見えてきそうです。
「スタジオまさるこ」から生まれる創作、その源は
書斎のあとに連れていってもらったのは、かつての豚舎を改修して作ったという自宅敷地内の小屋「スタジオまさるこ」。機材や趣味の道具が所狭しと置かれ、さながら創作の隠れ家です。ちなみに活動名でもある「まさるこ」は、地元での呼び名から。
「『犬っこ』『童っこ』と同じような感じで。この近辺では『まさるさん』って言う人はいないんですよ。まさるこ、まさるこって呼ぶんです」
元は別の芸名があったものの、「覚えてもらいやすい名前を」と師匠に提案。了承を得て以来は「人星亭まさるこ」を芸名に活動しています。

笑いのネタを携えて各地を巡り、かと思えば地域文化を足しげく取材してビデオに記録する。静かな佇まいからは想像できないほどのエネルギーは、果たしてどこから来るのでしょうか。
「なんか、それなりに夢中になっちゃうみたい」と自身の関心を表現するまさるこさん。一方で、「いつ辞めるかわかりません。いつまでも続ける気持ちはそんなにないんですよね」とも。
気になるからやりはじめ、夢中になって続けていたら形になり、気づけば今まで続いていた。目の前のことに興味を持って行動していくその好奇心が、まさるこさんのエネルギーの源なのかもしれません。
インタビューの間も話題ごとにコミカルな小話を披露してくれたまさるこさん、インタビュー終盤に一言。
「あっちゃこっちゃ勝手なこといっぱい喋りました。こういうお喋りになってしまったけど、昔、しゃべらない無口(むくち)だけど、今、口六つある六口(むくち)みたいになってしまって、すみません。(笑)」
最後まで笑いは欠かさない、面白いことで相手を喜ばせたい。そんな思いが見え隠れするお話にたくさん笑わされ、また和んだことは言うまでもありません。
今日もどこかで、まさるこさんの二刀流の表現から、ポジティブなエネルギーの連鎖が生まれていることでしょう。

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UGONEWS編集部(地域おこし協力隊|岸峰祐)



